エリアトピックス

地域の “ひと” に会いに行こう!
阿久津真美さん(一般社団法人フラットガーデン)
地域のひと紹介

2019.12.13

まちでの暮らしを楽しくするのは何だろう。おいしいお店や便利な施設・面白いイベントなど、たくさん答えは見つかりそうが、もしかしたらそこにどんな “ひと” が住み・活動しているかを知ることも、まちでの楽しみを増やす1つになるかもしれない。

そんな思いのもと、十日市場やその周辺エリアで活動する方々にインタビューをすることで、このエリアをより楽しむためのヒントを探していきたいと思います。

今回お話を聞かせてくださったのは、中山に拠点を置いている一般社団法人フラットガーデン阿久津真美さん。手話通訳(日本手話/アメリカ手話)の活動を軸としながら、様々な立場の人が平等に居心地よく過ごせる場づくりに取り組んでいらっしゃいます。11月23日に開催されたわくわく10ガーデン 秋のまちびらきでも、企画協力として多大なるサポートをしていただいただきました。

そんな阿久津さんに、地域のこと、仕事のこと、これからのこと。たくさんのお話を聞いてきました。

アメリカへの留学、そして手話との出会い

結婚を機に十日市場へと引っ越してきた阿久津さん。ご主人の都合もあり、このエリアに決めたと話しますが、阿久津さん自身は特に住む場所へのこだわりや抵抗は無かったそうです。

「アメリカに行っていたこともあって、どこでも住めると思っているので、そこまでは気にしてなかったです」

なんでも、英語の専門学校を卒業後にアメリカへ留学をしていたそう。

「高校生の時にアメリカに行ったら、英語が全然通じなくて。それが悔しくて」

「それで英語の専門学校に入ったけど、そこも上達できるような雰囲気の所ではなくて。これはもう現地に留学するしかない!と思ってね」

なんとか両親を説得し、現地の英語学校を経て、ようやく留学先の大学へと辿り着きます。そこにはアメリカ手話を学べる学部があり、もともと手話に興味を持っていたことも加わって、直感的にアメリカ手話の専攻に決めたそうです。

元々人と話すことで物事を吸収するタイプだと話す阿久津さん。日本とアメリカの手話を比較した論文を書く際には、本による比較をベースとしながらも、実際に現地で暮らしている日本人のろう者(耳が不自由な人)とコミュニケーションを取ることも。そうして日本の手話について、またアメリカ手話との違いについて学びを深めていきました。

このようにして得た留学経験が、その後の活動へと繋がっていきます。

バラバラになったはパーツは、ちゃんと戻ってくる

日本に戻った後は、アメリカ手話スクールのアルバイトをするために、派遣会社のアルバイトを掛け持ちして、アメリカ手話の経験が活かせる場から離れなかった阿久津さん。

機会に恵まれ、とある会社の社員としてアメリカ手話の教室を立ち上げることにもなったのですが、ちょっとした行き違いから仕事相手との信頼関係が徐々に崩れてしまい、結局2年ほどで中止になってしまいます。

全力をかけて入れ込んでいただけに反動やショックも大きく、しばらくは「やりたいことが見つからなかった」そうで、会社を辞めて友達の仕事の手伝いで千葉へ行ったり、アメリカへ旅をしたりなどもしますが、暗中模索のまま年月ばかりが過ぎていきました。

しかしその後、たまたま始めた近所の学童保育のアルバイトをきっかけに少しずつ調子を取り戻し始めます。また、今の旦那さんと結婚したこともあって腰を落ち着けるようになると、かつての仕事仲間からアメリカ手話の通訳の仕事をもらったり、ろう者に焦点を当てたドキュメンタリー映画のプロデューサーとしても活動するようになり、一度は「バラバラになってしまったパーツが戻ってきた」と話します。

そうして、積み重ねてきた事がひとつなぎになり、気付いたらかつての様に、手話を軸として様々な活動にのめり込んでいくようになりました。

 

その後お子さんが生まれてからは、子どもを通して地域の人たちと繋がる機会も多くなります。もちろんそこでも持ち前の企画力や実行力を発揮して、一緒に編み物をするだけでなく販売もしたり、はたまたみんな一緒に餃子を皮から手作りして、食べながら交流する場を設けるなど、活動は多岐に渡ります。

そうした中で、地域のご縁でたまたま活動拠点となる物件を中山で見つけることができ、一般社団法人フラットガーデンが立ち上がることとなります。

合言葉は「知ることから始めよう!」誰でも来れる居場所を目指して

フラットガーデンでの活動は、主に「レモンの庭」と呼ばれるカフェも兼ねた一軒家を拠点に行われます。特定の誰かだけにカテゴリーを絞るのではなく、どんな人でも一緒に居られるような場所にしたいと語る阿久津さん。今まで開催したイベントも、親子だけでなく年配の方やハンディキャップがある方など、様々な人が参加しています。

 

そんなフラットガーデンで阿久津さんが大事にしている事とは、一体何でしょうか。

「私自身は、『知ることから始めよう』をキーワードに動いています」

障害のある人や耳が不自由な人と普段接する機会がなかなか無いと、どうしても誤解が生まれやすくなり、摩擦が起きたり、しいては差別に繋がってしまうと話します。

「知らないから、全ては上手くいかなくて」

「だから、ここの空間で、そういう人とも出会って、お互いを知れるようにしたいというか」

そうして一人でも知ることが出来れば、街へ出た時にも気付けたり、想像を巡らすことが出来る。そういうことが全てに通じる。いつでもそこを念頭に置いているそうです。

「べつに仲良くする必要はないし、何かしてあげる必要もなくて」

「でも、知ってさえいてくれれば。あとはどうするかは自分次第」

障害を持っている人や、障害のある子を持つお母さんやお父さんにも、

「全然良いんだよ!ここは来て良いんだよ!」

と力強く語ります。普通のカフェやレストランだと、何かしてしまったら迷惑をかけてしまうと思い、つい足を運ぶことを躊躇してしまうそうです。

「でも、それを許容できる社会になったら良いよね」

「そうしたら、自分たちがそういう立場になったり、歳を取っても生きやすいよね」

こういったことを、なるべく一過性のお祭りやイベントとはせずに、日常的に取り組んでいけたらと話します。

 

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今回の取材を通して阿久津さんの想いをお聞きしたことで、改めてフラットガーデンでの活動はいろいろな人が集える場所を目指していることが窺えました。自分も時々、レモンの庭で珈琲でも飲みつつ仕事をしてみようかしら。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(写真/文:平出)

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